東奥日報昭和四十五年一月三日号
「丸光」「緑屋」という黒船の到来で目をさまし、奮起が大いに期待されている八戸市商店街だが、ことしもどうやら試練の年になりそうだ。「丸光」「緑屋」の力は、昨年「丸美屋」の閉店で充分思い知らされている。ところが、今年の秋には「長崎屋」が一枚加わることになっているのだから商店街にとってこれ以上の大脅威はない。一方これを迎え撃つ地元側はどうかというと、「長崎屋」よりおよそ一ヶ月遅れて「みまんショッピングセンター」「八戸中央ビル」「七尾ビル」などが続々顔を揃えて対抗することになっているが、全般的に立ち遅れの感は免れない。共同店舗、専門店化など、大型店対策が叫ばれてはいるのだが、なかなか具体化するまでには至っていないのが現状だ。
大型店進出の影響がはっきり現れ始めている昨今だけに、同市の商店街はことしも波乱に明け暮れそうな情勢になっている。
ことし新しく生まれ変わるところを拾ってみよう。最も早いとみられるのが、十月オープンの「長崎屋」(八日町)地下一階地上八階、床面積一万三千二百平方メートルというのだから一部娯楽部門の営業が予定されているとはいっても相当な売り場面積だ。しかも全部が衣料で全国に五十以上の店舗を構えるチェーンストアだけに独特の販売シシステムがとられるといわれ、地元の衣料関係小売り業者にとって大きな脅威となりそうだ。
続いてお目見えするのは「みまんショッピングセンター」(三日町)だろう。十一月下旬ということだが、建物の規模は「長崎屋」「丸光」をもしのぐ地下一階、地上八階の大きなもの。この中にはデパート一つのほかスーパー一、専門店二十―四十などが入店するといわれ、完成すると、このショッピングセンター内だけですべて必要なものが整えられるという完ぺきさを持つ見込み。
また早くからウワサにのぼっていた三日町防災街区の第四号ビル「八戸中央ビル」も、いよいよ今月中に着工、オープンは十一月。地下一階、地上六階、五千五百平方メートルの共同ビルとなるが、これもショッピングだけではなく、レジャー的な機能まで持つことになりそうだ。長横町では七尾家具百貨店が建設を予定している「七尾ビル」がある。ほとんど同店が使用することになりそうだが、家具専門店であるだけに、その規模はかなりのもの。
このほか、六日町には「松和ビル」の建設構想があり、今年は「丸光」「緑屋」が進出した一昨年を上回るにぎやかなビル・ラッシュになりそうな気配となっている。
ここでもう一つ見落とせないものは十三日町の「丸美屋」跡がどうなるかということである。三日町中心の傾向が強まってきているものの「丸美屋」跡は一等地であることにかわりはない。その意味では現在の状態で放置しておくこと自体大きな損失であり、新年早々から「丸美屋」をめぐる動きが活発になることが十分予想されるところ。そして、いたんでいるとはいえ「丸美屋」の建物がなんらかの形で新しく生れ変わるのも案外早いのではなかろうか。
こうしてみてくると、秋から来年にかけて同市の商店街では、これまでなかった激しい形の攻防戦がくりひろげられることになりそうだ。「丸光」「緑屋」の進出で「丸美屋」が手をあげたのは、わずか一年あとのこと。関係者のみならず大型店の力を目のあたりにみせられた格好だった。ところがこれに「長崎屋」「みまんショッピングセンター」などが続くとなれば、商店街はいったいどうなるのか。従来からの地元業者にとっては試練以上のものになることは確か。これからの荒波をどう乗り切るか、各小売業者にとって今後大きな課題となることだろう。
しかし、大型化の動きをよそに全般的に見た場合地元側の立ち遅れはどうしようもない。先にあげた一部の小売業者はすばやく転換、あるいは店舗の近代化などで県外資本との対抗策を編み出したが、大部分の業者はいまだに流れに身をまかせている感じ。このままでは、必然的に苦境に立たされるところが出て、「丸美屋」の二の舞を演ずる懸念さえある。
ただ店舗の近代化を図るにしても先立つもには資本。ところが個々の業者では当然限界がある訳で、仮に経営者の頭の中に考えが芽生えても先には進めない。そこで、出てくるのが「八戸中央ビル」(つきや洋装店と広沢朝平氏の共同ビル)のような店舗の共同化など。大手スーパーの進出に悩まされている地方都市で最近活発になっている大型店対策である。この際関係指導機関が率先して地元の力を結集するように業者に働きかけ、これから永久に続くかもしれないあらしに備える必要があるのではなかろうか。
こうした中で注目されるのは専門店会(小瀬川吉三理事長)と商業会(石岡佐蔵)の合併問題である。大型店に対抗するための一つに割賦販売があるといわれているが、どちらかといえば、是までは地元同士が競争に身をやつしてきた感が強かった。これでは共倒れの恐れさえ出てきかねず、「敵は本能寺にあり」ということで今回両者の合併話が浮き上がってきた。順調に話し合いが進めば、四月には実現の見通しだという。
昭和四十五年元旦 東奥日報
大型店めぐり攻防激化 八戸に進撃始める 温室に吹き込んだ風
地上八階の長崎屋
青森県の流通業界の本格的な変革は五、六年先=これは五年くらいまえから毎年のように繰返されてきたことばだ。大型企業の影響は、関東の日帰り圏に編入された地区だけ。東北では福島あたりが吸引され始めたが、青森県を中心とした北部三県はまだまだ……業界にはそういう安心感があった。
大型化、近代化は理論では聞かされ知ってきたが、」きびしさに眼をつぶり、なんとなく時期尚早論を口にしてきた。これが青森県の流通業界の現状ではなかろうか。しかし、温室のような青森県の業界にも、容赦なくスキマ風が吹き込んできた。
青森県の流通業界の最初の試練は一昨年、八戸市に進出した域外大型店の開店で始まった。この影響は昨年になって、地元企業の閉店という形で現れた。大型店が地元業界に及ぼす影響を、業界はまざまざと見た。五、六年先どころか現実に足元で波乱が起こったわけである。
地元が最も恐れていた事態、つまり閉店や倒産に追い詰められるきびしい事態に業界は揺らいだ。しかし、これは域外勢力が伸ばしたほんの一部の触手にすぎない。またそれが業界への決定的な打撃になったわけではない。早い話が局地的なアラシだった=と見てよい。
注目されるのは、昨年後半にクローズアップされた第三勢力のショッピングセンターである。八戸地区に着工した「長崎屋」は全国に五十の店舗を持ち、年商は実に四百億円(四十五年二月決算時の推定)秋田、盛岡とじりじり北上を続けてきたが、本県入りは八戸が初めて。
地上八階のビルは、八戸市内でも高層建築の部類に入る。巨大なだけなら、地域だけの影響で住む。広域店といっても県南から岩手県北までの地域が影響を受けるだけで済む。しかし「長崎屋」の場合はそれだけでは済まない。それは前にもあげたように、同店がショッピングセンター的な経営形態を考えているからである。
アラシは強くなる ショッピングセンターは、もともと米国から輸入された形態。海外でのショッピングセンターは例外なく郊外型。下町の小売業は自動車の洪水で立ち行かなくなった。このため郊外の原野に、マンモス的な店舗が続々開店した。これが日本にまっすぐ入り、今その本格的な第一波が本県にも及んできたというわけだ。
現在、国内で最も大型なショッピングセンターは、百二十五の出店者を抱え一万四千平方米の売り場面積を持っている。ところが売り場面積六万六千平方米という巨大なものも計画されている。弘前には大坂資本のショッピングセンターが開店して話題を呼んだがこうした形の店舗が次々に計画され、開店していくものと見られる。
こうしたはなやかな開店のムードの裏に、問題点が全くないわけではない。それは高層化に伴うビル経営上の問題である。簡単に言えば、各階を満たすだけの入店者があるかどうか=ということだ。この点について先進地八戸の商工会議所では次のように警告する。「地下、あるいは一、二階は建築主が入ることが多く、別に困らない。しかし三階以上となると、なかなか簡単に決まらない。よそ(域外)から連れてくるのもいいが、下手をすると競争相手になる。この悩みは大きい。高層ビルで最も苦労するのは三階以上をどうするかだ」
巻き返しはできる ビル建設の資金は、極端にいうとどうにでもなる。建ててしまってからこういう伏兵がいることも十分知って置くべきだ=と同会議所では言う。ビッグストアは、ボウリング場などレジャー施設を抱えて出店する。これは地方進出の戦略としては、最も効果的である。現に、黒石市に開店したデパートのチェーン店もこれを採用した。
「しかし、八戸市には既設のボウリング場が何ヶ所かある。レジヤー施設にも限界というものがある」と同会議所ではいう。防災ビル、あるいは再開発ビル…と近い将来、市部にはショッピングセンターがどしどし建つだろうが、この点を考えに入れて置かなければ百%事業を達成したといえない=というわけである。
このショッピングセンターは、地元の商業団体、たとえば専門店会や商店組織に、微妙な影響を与えそうだ。ビルが出来れば、食料品店や飲食店が開店するのは最近の風潮だと言われるが、これはその他の業種にもいえる。とにかく、近年にない出店ブームが出現すると予想される。
いきなり規模の大きい競合時代に巻き込まれて、地元の業者は何を考えているだろうか。これも八戸商工会議所の意見だが、巻き返しは出来る」と断言する。同地区の業界にとって当面のライバルは大型店。はっきり言うと、デパートには、あらゆる商品がある。総合的には消費者の需要は満たせる。この点は太刀打ちできない。しかし専門商品となると、個人商店の努力移管では十分対抗していける余地がある」と同会議所はいうが「地元の三萬が計画したショッピングセンターは生き延びるためにはよい方法だ」と両面作戦の必要も付け加えた。
ショッピングセンターの展開とデパート、スーパーの新市への出店は、ことしの商業界の二つの目立った傾向になりそうである。このほかに考えられるのは、第二の商店開発である。八戸市の繁華街は道幅が狭いため一方通行になっている。
「こうも車が多くなると、戦災にあわなかった町並みだけに駐車場難がこたえる。こうなれば、新しい商店街の位置を考えなければならない。たとえば類家田んぼとか尻内駅周辺とか、土地の問題に煩わされないところに中心街を移動させることも…」と地元ではいう。
昭和四十五年三月二十日 東奥日報
三春屋が買収交渉
八戸丸美屋デパート大資本進出押さえる?
中央資本の進出と大型店の挟撃をうけて閉鎖のうきめにあった八戸市十三日町、丸美屋デパート(大沼直社長・資本金三千五百万円)の跡地利用については、中央資本あるいは地元業者の手でどのように再建を図るか注目されていたが、結局隣接の総合衣料店三春屋(藤井与惣治社長・資本金五百万円・従業員八十四人)が昨年暮れから買収交渉を進め、いま買収条件などで詰めの段階。
丸美屋デパートは負債総額約五億円をかかえて精算事務に入っているが、土地は三千三百平米の坪単価七十万円としてざっと七億円に上る巨費だけに、おいそれとは買い手がつかなかった。もっとも中央から十字屋をはじめ大手からの買収交渉があるにはあったようだが、八戸商工会議所など地元商業界から「ここ一、二年の間に「丸光」「緑屋」、それに現在建設中の「長崎屋」が相次いで進出、地元業者を圧迫している折に、これ以上中央資本の進出を許してはますますジリ貧状態に追い込まれる」として、地元業者を優先的にという要望が強かった。
結果的にはこれが受け入れられた形で、今三春屋が単独で買収交渉を進めている。買収条件については明らかではないが、丸美屋の建物(鉄筋コンクリート、地上三階延べ二千二百七十六平米=食堂を除く)は十勝沖地震の影響で使用に耐えないため
① 土地を買収する
② 株を額面より高く買収して、一切の負債を肩代わりする
の二点が考えられているが、後者の買収形態で交渉をすすめているといわれる。
問題の丸美屋労組(富岡委員長ら二十五人)は営業時の百九十人から大きく脱落し、いま経済闘争に重点をおいている。それも退職金の上積みなどの条件さえ同意を得られれば、あえて再雇用問題に固執しないと態度が軟化していることから、解決の方向に歩み出している。もっとも丸美屋としても五億円に上る負債の金利だけでも月約三百五十万円余に上るだけに、労組の要求にある程度譲歩しても土地を売り急いで早めに精算したい考えもあるようだ。
(つづく)