2008年12月12日金曜日

八戸信用金庫事件 続2

この一連の長寿温泉の事件を十分に睨んだ上で、どうにもならなくなった事態を解決するために、又も東北財務局に足を運ぶことを決意した。資料は直接本人から聴取していただくようにし、状況をまとめ、前号に掲載した記事を作成し、昨年の五月末に東北財務局に持ち込む手筈だった。
 筆者はいきなり、東北財務局には行かない。それは余りにも非道だからだ。前回、東北財務局に行った時は、事件の当事者であったから、当然、この件に関しては東北財務局に行くゾと宣言した。
 その事件とはって聞くの? それは、金銭消費貸借託に違約金の利子が記載されておらず、空欄を一方的に八信が書き人れたことによる。金銭消費貸信託は複写にして双方が持つのが普通だが、借主の欄は空白で、八信が後からそれを書き入れた。こんなのは八信に言わせると当然だそうだ。それで怒った訳だ。
 今件も、記事を書いて、それを八信の営業推進部長の高橋氏に持ち込んだ。こんな話があり、筆者はこの件を東北財務局に直訴し、八信の非道なやりかたを調査して貰うと宣言。
 当然、八信は慌てた。もう去年のことで大分忘却の彼方になったので、詳しい日付は忘れたが、金曜日に行ったので、当然、次の日は土曜で休みだ。それを撤回して役員会議が開かれた。そして、何とか筆者の足を止めようと決定し、日曜日に長寿の田中社長のもとに勝田太三郎常務理事と河原木支店長が飛び込んできた。
 そして、何とか月曜日に筆者が東北財務局に行くのをとめて欲しいと、土下座をせんぱかりに頼み込んだ。これも手口なのだ。
 警察の刑事が被疑者を脅す係と宥める係がいるように、弾圧、懐柔をこのんでとるのが金融屋の常套手段。後で判明したことだが、佐藤部長も八信の手引き書通りに、ことを運んだだけで、気の毒な存在だったのだ。
 企業は誰しも、その存続を守らなければならない。そのため、色々な駆け引きをするのは理解できる。だが、余り、走り過ぎると咎めが出る。その咎めが出そうな雰囲気になる時は、新任の部長が現場の指揮をとる時、新任の社長が新しい体制を確立するため、子飼いの部下を前面に立ててラッパを吹くと、相場は決まっている。今回はそのどれに当たったかは、読者諸兄の判断に委ねる。
 八信に東北財務局に洗いざらいブチあけて、八信のやりかたを是正してもらうと言っただけで、長寿を助けてやって欲しいなどとは一切言わない。そんなことは筆者に関係のないことなのだ。気の毒な借主がいて、それを非道なやり口でやりこめる態度が間違っていると言っている。
 職業上知りえた秘密を守らない。借りた金は返すという言葉を受け取らない。返済計画書を作文だと見ようともしないやり口が汚いと言っているのだ。
 長寿の社長が道わないと、何度も足を運び、ともかく筆者に、月曜日には東北財務局に行かないように伝えてくれと長寿の田中社長に懇願したのだ。
 そんなことは筆者に言えばいいのだが、筆者は当然、行く行かないは私が決めることで、あなたが決めることではありませんと言うだけだ。
 そのため、長寿の田中社長に泣きついたのだ。
 なんとか、意にそうようにしますから、東北財務局には行かないでくれと、土下座をせんばかりに頼みこまれ、長寿の田中社長は根負けし、ピアドウのイトーヨーカドーで八戸テレビの芸能番組「八戸の芸達者さんいらっしゃい」の収録で企画・司会をしている筆者に、勝田常務もここまで言っているので行かないで欲しいと相談があった。この番組は人気番組で出演者が続出。
 筆者は八信の手口を知っているので、そんな話には乗るナと突き放した。八信は裁判にかければ時効になった四億四千万円は取れると言っているが、それは八信の言い分で、財務局がどう判断するかは判らない。
 つまり、長寿の借金がどの分類になっているのか、完全にコゲついた分類に人っているのか、それとも、何とかなるとの分類にあるのか、それは、監督官庁を動かさないと判明しない。それに借主の言い分を少しも聞かない八信のやりくちを直訴し、同様に八信に苛められている多くの人々を救済するべきで、長寿だけの問題ではないと筆者が説得するが、長寿の田中さんの意に添うようにするので、行かないようにしてくれの言葉が頭にこびりついている田中氏は何とか頼むの一点張。
 ここが、難しい所だ。勝田常務話が信用できるのか、常務たる者が今までの経緯を知らない筈はない。本部から派遣されている佐藤部長は八信を代表して来ている。
その人間との交渉が決裂している状況を役員が知らない訳はない。
 ここで、長寿の田中氏が強硬な態度をとれば、次の策として、専務理事が出て来る。それでも通らない時はいよいよ理事長の出馬だ。ケンカの時は相手の大将との直談判が大事。
 常務理事や、専務理事の出馬の段階で矛を治めるならケンカなんぞしない方がいい。だが、長寿の田中氏は尻に火が付いている。つまり、競売をかけられてしまっているので、王手を宣言されているのだ。
 ここが,筆者の立場と大きく異なる。
 筆者の場合は八信からも青銀からも一銭の金も借りていない。だから冷静に物事が見える。筆者は青銀や八信に金は貸していても、借りはない。
 銀行に金を貸していると言うと、吹き出す人もいるだろうが、金融屋は預金とか積み金とかの言葉を使うが、それは、取りも直さず金を貸していることなのだ。金を貸して下さいと言いにくいので、定期預金にとか、満期がきたらなどとの耳障りのいい言葉を使うが、返済期限がきたのでお返しさせて頂きますと言うのが正しい。
 立場を変えてみると見えないものが見えてくるようになる。
 長寿の田中氏に勝田常務理事は文書で書いたのではない。あくまで口約束なのだ。具体的にどうするの言葉もなく、タダひたすらに東北財務局に行かないで欲しい、行かないように伝えて下さいと繰り返すだけだ。
 これは時間を稼いで、長寿の田中氏の返済の意思がある内に証書を書き直そうとの魂胆が見え見えなのだ。
 金融屋に恥じとか、外聞なんて単語はない。自分が助かるためなら何でもする。丁度、借金地獄に陥った者が助かりたくて、親でも子でも売るようなものだ。
 何故、そんなことを筆者が公言するかと言うと、分積み両建てという言葉がある。これは定期預金を押さえて、満期が来てもそれを貸金の担保として支払わないことを言う。これを大蔵省は厳重にダメだと宣言。そして、それを指導もする。
 これを筆者がやられた。東京に在住していた頃で、借金で首が廻らなかった時だ。銀行の支店長に、それは違法じゃありませんかと問うと、違法でも何でもいいから支払わないという。大蔵省に行きますヨと言うと、どうぞだ。
 そこで、当時の大蔵大臣の秘書をしていた大学の先輩に面会を要求すると、銀行局へ廻された。かくかくしかしかと言うと、○○銀行ですネ、了解しましたので、お帰りになって下さい。お帰りになった頃には解決しますと、課長は自信たっぷり。
 狐につままれたような気で、自分の会社に戻った所、当の支店長が満期の預金と利息を持って待っていた。
  『私どもの心得違いで、今、頭取が大蔵省に呼ばれてお吐りを受けております』
 これほど左様に世の中の仕組みはしっかりしている。
 役人に業者は頭が上がらない訳だ。
 下は交通違反のもみ消しから、上は許認可の事業まで、全ては役人が牛耳っている。だから、筆者が最後の最後はお代官様、将軍様への直訴があると言うのだ。
 筆者は男を五十六年やってきた。間もなく五十七になるが、その間一度も女になったことがない。当たり前だと笑うだろうが、男を下げたことがないのだ。
 自分に非があれば、これは謝る以外に方法はない。だが、頭を下げたことは数える程しかない。八信には恨みこそあれ、借りは一銭もない。
 筆者は強硬だ。そして、長寿の田中氏も東北財務局に行く以外に方法はないと信じたのだが、ここが借り手と第三者との違う点だ。
 今まで漓もひっかけないような態度の者たちが、手のひらを返したように低姿勢になったのを、気の毒だと思ったのだろう。そして、その言葉にすがり、何とか事態を丸く治めようとしたのだろう。
 筆者は、田中氏に言った。
  『行かないのも一つの方法ですが、時効の件はなくなりますヨ、つまり、借金は棒引きにならなくなります。次に八信が出て来るのは、美味しいことを言って、貴方に期待を持たせ、借金証文を書き直させます。そうなると、新規の借金となり、四億四千万円は支払う義務が発生します。それでもいいんですか、東北財務局の判断を待ってからでも遅くありませんか』
 気のいい長寿の田中氏は、
  『勝田常務もああ言っているし、行かないでいただけませんか』
  『彼らは助かりたい為に、貴方に嘘までついてでも、私の足を止めるだけなんですよ、彼らの判断と東北財務局の判断は違う筈だ。役人は役人の倫理観があり、八信に非があれば指導監督する責任があるのです。その判断をして貰ったらどうでしょう』       {
  『いや、勝田常務も河原木支店長も、プレイピア白浜の売却に八信の全力を傾けて努力するとも言うので、あの物件が処分できれば、我々は風呂屋だけで十分に経営の立て直しが出来る。だから何とかなりませんか、東北財務局に行くのを止めて欲しい』
 ここが難しい判断になる。
 八信が言うのは助かりたいための便法で、嘘に決まっているのだが、地獄を見て来た人間に突然現れた地蔵様のように、思えたのだろう。ケンカの仕方を知らない人は、往々にして、この懐柔策にだまされてしまうものだ。 続