2009年3月21日土曜日

いづみや薬局のこと


八戸の中心街にいづみやって薬局がある。これは誰でも知ってるほどの老舗。昔は雑貨屋。薬局を開いたのは昭和三年九月のこと。昭和十二年の八戸商工名鑑には鈴木レンが店主としてある。
薬局で古いのは寛政四年の二十三日町のおなじみ金子安兵衛の金子薬局。十三日町の加藤能萬堂は加藤万吉、明治五年。三番目は明治三十六年、最上光男の明治薬館。四番は倒産した関野薬局、関野郁郎、大正十一年。五番は湊本町、浪打定雄の大正十二年。六番は荒町の大和屋、河野富之助、大正十五年。七番は小中野新丁、済生堂、岩上信次郎、昭和二年。八番は昭和三年五月創業の小中野新丁最上薬店、最上亀之助。九番が和泉屋になる訳で野球なら投手の打順か。
この薬局に図書館の帰りにフラっと入った。というのも、指先が荒れてヒビ、あかぎれの類になって直らない。昨年の九月ころからひどくなり、バンドエイドのバンソウ膏をぐるぐる巻きにしていたが、ミイラの指先みたようでめぐさいばかりで非能率。図書館で本はめくれないコピー代の十円硬貨は落とすと効果がない。さて、弱ったとおもったとき、いづみやで聞いてみようと行ったナ。美人の姉さんが白い服着てにこやかに応対。指先見せて薬がほしい。「尿素の軟膏がいいですヨ」と出されたのを塗ったナ。親切に手袋履いて寝るといいと教えてもらった。
早速実行。これが効いた。たちまち太郎はお爺さんじゃない、浦島太郎は土産に貰った玉手箱、開けてびっくり、ビックリ箱だったが、いづみやが教えてくれた軟膏は結構なもの。
老人性乾燥肌の人も多いだろうから、いづみやが教えてくれた軟膏を教える。ムーゲホワイトだ。伊豆に旅行に出て、これを忘れて量販店の薬局で尿素入りを買ったが、効き目は提灯と釣鐘ほども違う。やはりいづみやの物が一番。七十過ぎの爺さんにも貸してやったが「良く効く」と絶賛。
そのいづみやの話がデーリー東北の昭和三十四年にシリーズ企画、トップに聞く
催眠術・漢方薬あれこれ
に掲載されていた。この社長鈴木吉十郎氏も鬼籍。
催眠術、自己暗示を手助け、走り出した歩行困難者
 八戸市番町にある老舗和泉屋薬局。記録は大正十三年の火災で焼いて正確にはわからないというが、創業は明治の始め、当時は雑貨商を営んでいた。曽祖父が八戸商業銀行(のちの八戸銀行)を設立したというから八戸経済界の名門である。薬局の開業は昭和三年。当主吉十郎氏(四六)が家業を継いだのは昭和二十一年。旧制八戸中学から東京薬専(今の東京薬科大)に進み復員してからのことだ。童顔で温厚な紳士で漢方薬の研究家としても知られ催眠術の権威。
鈴木 私たち同業者の組織に日本薬局共励会というのがありまして、この会は会員二千五百人、折にふれて研究会を開いておりますけど、三年前に、この会主催で催眠術の講習会があったんです。全国から二十五人の希望者があつまり三日間缶詰にされて教えてもらったのが初めです。やってみますと、なかなか面白い。やみつきになって勉強を始め研究を続けているわけです。
知能指数が高いほど成功
だれにもかかるというものですか
鈴木 催眠術は自己暗示を助けるもので、かける、というものではないんです。だから知能指数七十以下の人には成功しない。知能指数が高ければ高いほど成功しますね。年代別にみますと小学生はかかりやすいけど、高校生は難しい。二十代、三十代と年齢が進みますと精神の集中力が出てきますので比較的容易になってくる。
なるほど、自己暗示を手助けするということになればかける側、つまりあなたを絶対信頼してもらわねば無理ですね。
鈴木 そうですね、尊敬といえば僭越(せんえつ・)ですが、そういった感情を持っていただかないとむずかしいんです。私たち同好者たちのあ いだで「女房を催眠術にかけられるようになれば一人前」とよくいいますが、残念ながら、私も女房にはまだ成功していない。
八戸では他に…
鈴木 青南病院の千葉先生もかなり前からされておられます。「私も催眠術を始めましたよ」と言ったら「考えつく所は結局同じなんですネ」と例の調子で愉快そうに笑っておられましたが…
疲労ひどく、眠れぬ人にきき目
鈴木 まず疲労がとれる、ということですね。疲れがひどくて眠れない人によく効きます。
病気の人に応用したことがございますか
鈴木 三年前から坐骨神経痛を患っている人から手紙が着ましてネ。病院に行って注射を打ってもらったら、痛みは三日で確かに止まったが、そのあと歩行困難になったという。四、五歩歩くとのめってしまうんだそうです。漢方薬を送っていましたが、つい先日娘 さんに連れられて店にやって来たんです。いろいろ症状を聞いてみると、どこも悪い風がない。潜在意識が働いて足をかばっているように判断されましたので、テストに催眠術を応用してみました。催眠をかけたまま、手をとってやるとチャンと歩くんです。そばにいた娘さんが「あ、歩いた」と手を叩いて大喜びでした。そのことをよく説明して帰したんですが、奇跡はそのとき起きました。店を出たら向こうから車がきたんですね。あっと思っているうちにご本人が走って道路を横断してしまったのです。あの時のうれしそうな顔はまだ忘れられません。この人のように、病気の原因は意外なところにあるものなのです。漢方でも気の持ちようを重視しますけど神経を必要以上に使うということはやはり病気につながるようですね。
ほかにはありますか。
鈴木 いろいろありますが、このあいだもゼンソクの人がきましてね。この人は薬が全くきかないという、どうも精神的な面に原因がありそうに思いましたので、催眠術を応用してみたわけです。眠らせて「ノドのゴミが全部出てしまいましたよ」と何回か繰り返したら、完全に回復しちゃった。この人の場合は周囲が騒ぎすぎたのです。その反動で常時ノドがつかえているような感じを抱いていたわけです。そこをついて「ノドのゴミがなくなった」という暗示をかけてみたんですがね。
効能たちまち現れるというところですね。時間はどのくらいかかるものですか。
鈴木 四、五十分ですね。店が忙しいときなどは大変です。
ご自分でも利用されていますか。
鈴木 他人からやってもらうことは不可能ですね、かけかたを覚えるとなかなか暗示にはかからないんです。結局は自己催眠しかない。この場合も、意識の半分は催眠にかかって、半分は目覚めている。しかし、からだの緊張がとけますので、それが精神面にも波及して効果はあがります。私の健康法です。
まず「ジン」を強く
長生きの秘訣、薬効著しい「八味丸」
話題を変えて長生きと薬について話しましょう。近年、平均寿命が延びてまいりましたが。
鈴木 乳児の死亡率低下、結核の減少などが、寿命伸張の大きな原因でしょうね。
常用すれば下半身に力つく
長生きする秘訣という方法はありますかね。
鈴木 漢方からいきますと、よく肝腎要といいますでしょう。これは、人間の保健上、肝臓と腎臓が最も大切だとすることからきているんです。カンシャクを起こすというのも、イライラしたりすると肝臓がシャクを起こすことを意味しており、まったく肝と腎が健康保全には重要とされています。とくにジンが問題ですね。腎臓の場合には利尿剤にはきき目のあるいい薬がありますけど、腎臓そのものに力をつけて病気をなおす薬となれば難しいのです。漢方ではジンといいます。これは腎臓、膀胱、生殖器をひっくるめての総称ですが、ジンを強くすることが第一なのです。食べる面から考えればなんといっても玄米食ですね。漢方薬では「八味丸」をすすめております。これを常用すれば下半身に力がつく。足はもちろんあそこにもききます。ジンが強くなるからですが、問題は毒薬も含まれているので取り扱いは慎重でなければならないということです。このため普通用いられているのは毒薬を入れない「六味丸」なんですが。
毎日服用するわけですか。
鈴木 続けてのんだほうがいいですね。糖尿にも効果があります。
価格は?
鈴木 一日分で百円です。副作用の心配もございませんし、どうですか、お試しになってみませんか。
早速のむことにしましょう。糖尿にもいいんですね。
鈴木 漢方では体のバランスのくずれを糖尿病の原因としています。玄米と野菜を主にした食事で力をつけないと、この病気はなおらない。糖尿には減食うんぬんといいますが、これには私は疑問を持っている。理にあった薬を用いて、とにかく下半身に力をつけることです。人生の楽しさ、生きていることの楽しさもこの辺からじゃありませんか。
すぐ効き目を期待することは無理なんですね。
鈴木 そういう薬もないわけではありませんが、瞬間的に効能がでても、あとガクンとくる例が少なくない。体力をたくわえる、蓄積する、こういったことにもっともっと意を注ぐべきでしょう。そのためにはふだんの食事が肝要ですね。最近、どこの家庭、レストランへ行っても、料理は確かにおいしいが、酸性のものが多すぎる。アルカリ性の食品が不足です。このため栄養のバランスがくずれ、体力を低下させている。食事はおいしければいいというわけではないんです。
ところで和泉屋さんは昔から漢方薬を扱っていましたか。
鈴木 昔は漢方を扱う薬局はなかったんです。一種ずつの薬草はありましたけど。私が漢方に興味を持ちはじめたのは、復員まもなくのころです。倉庫を整理していたら、薬草がずいぶんあるんです。多少の知識は持っておりましたので、思わずこれはもったいないということになり研究開始。そしてあるお客さんに投薬してみた。意外なほどの効き目がでた。それからは、漢方のとりこになってしまいました。勉強をすればするほど魅力が大きくなる。とりつかれる、という言葉がありますが私の場合はまったくそれでしたね。早いものであれから二十年たってしまいました。だいたいが漢方というものは、いまの医薬とは考え方が違う。さっき説明した「八味丸」にしたところで、これは糖尿にも効くし勢力剤としても効き目が顕著だ。医薬とはやはり違うんですね。ぬずかしいのですが研究すると奥が深いんです。
栄養剤が最近多く出回っていますが漢方には?
鈴木 漢方は体全体を考えますからね。そういう意味からいくと、やはり「八味丸」でしょうか。
糖尿病、白内障にもきく
ということは「八味丸」の効能範囲はかなり広いんですね。
鈴木 そうですね。白内障にもきくし、排尿回数の多い人にも効果がある。さっきも申し上げたように、漢方では体のバランスを重視します。これがくずれると主として下半身が弱くなる。よくのぼせ症の人がいますね。こういう症状の人はした が弱い。「八味丸」の常用で力がつくんです。自然の状態にかえりますね。
ニンニクとかクコ、コンフリーなどはどうなんですか。
鈴木 ニンニクは摂取した食物の栄養を全身にまわす、酸性を中性にする、つまり体の毒を中和させる効果があり、確かにいいと思います。コンフリーは薬ではないんです。薬草の許可がおりていない。しかし、分析してみるとかなり栄養価が高いようです。クコも同じですね。しかし、クコを用いてかえって体の調子をくずしておられる方が少なくない。それは、クコをお茶がわりにガブガブ飲んでいるからですね。
水分の取りすぎはよくないんですか。
鈴木 そうですね。たとえばジュース類とかコーラなどをあまり飲むと、水分のとりすぎで腎臓に負担がかかる。病気ではないんだが息切れがする、めまいがするとか血圧の高い人たちがよく来店しますが、症状を聞いて調べてみると、ほとんどが腎臓の機能が弱っている。さらに調べると、水分の摂取量が多いんです。
ヘビなどは。
鈴木 ヘビの油、ハブの腸からとった油などはきわめて神秘的ですね。ニンニクとヘビの油で作ったものに「ホリグロン」という薬がありますが、これは私も毎日服用しています。
マタタビがいい、ということでウイスキーにつけて用いてみたら、塩辛くてとても飲めるものではなかったですね。
鈴木 漢方ではマタタビは使いません。これは「サルの腰掛」がガンに効くというのと同じで民間薬、民間療法の一つでしょうね。「サルの腰掛」は十和田の蔦沼付近にたくさんありますね。これは乾燥させてくだき、煎じて飲めば利尿作用はあるようだが学会では否定しています。抗癌作用はどうか、私にもわからない。
神経痛にきく漢方は。
鈴木 神経痛はハリ、灸でいうツボによく出ますね。これを経絡といいます。病気をしますと、経絡によって神経痛が動く。それによってどこの内臓がやられているか見当がつくんです。経絡というものは研究すると面白い。たとえばたとえば肝臓を通る経絡はノドも通っています。扁桃腺炎にかかったときは、だから肝臓に効き目のある漢方薬を飲むとなおるんです。
漢方薬の種類は?
鈴木 処方にして約百種ですね。漢方では「八味丸」のように、一つの処方をいろいろの病理に使います。だから応用するとなると、百種類しかないが、あらゆる病気につかうことができますね。
塗り薬もありますか
鈴木 漢方は内服薬が主です。水虫なども内服を用いますね。塗り薬は「紫雲膏」一つです。これもいろいろのものに応用できます。
老年期には摂生が一番
定年退職したとたんに体が弱くなって病床につく、といった例をよく聞きますが、老年期の保健対策としては。
鈴木 なんといってもそれはふだんの摂生が一番でしょう。栄養価の高いバランスのとれた食事をとり、適当に休養することですね。よく強精剤を用いられる方がいらっしゃいますが、これも乱用はむしろマイナスです。ホルモンの入ったものよりは、総合的な栄養剤をおとりになったほうがいい。その場しのぎ、そのときだけに効く薬はつつしみたいですね。とにかく体力さえついていれば、病気はあるていど抑えられます。健康管理にうるさい方は、水を飲む量も規制しますよ。一日五合が適量だから、酒を飲んだら水を減らすとか、しかし、ここまでいくと楽しみはなくなる。ふだんから健康に留意することですね。要は…
ところで薬局さんとしての景気はいかがですか。
鈴木 売れ行きは年を追ってふえています。だが、八戸の場合は、店の格差が大きくなってきた。売れ行きといえば、むしろ病院、医院が売っています。薬の消費量の七割は病、医院扱いですから。
どうもありがとうございました。(にこやかな話しぶりである。店でお客さんに接している、そのときの微笑もそうだが、鈴木氏の表情はいつも明るい。人柄がそのまま出ているのだろう。対談はソフトな雰囲気で終始した。話しぶりはきわめて謙虚である。そして造詣が深い。二十余年のキャリアに加え、たくみな、人をそらさない話術。老舗のご主人という感覚とは違う新しさが、この人にはあった。)聞き手は穂積氏

鈴木氏も亡くなった。催眠術をとりいれて人々のお役に立とう。また自己啓発の手段としようの努力の人であったように見える。
人間は誰しも死ぬ。その前に何をしたかが問われる。家業の売薬を通して八戸及び八戸人を眺め、その地域、人々に何を貢献できるかが人生の最大の課題だ。金をどれほど儲けようが、資産を増やそうが、そんなことは何の役にも立たない。
 生まれた土地、育った地に、いや、日本にどれだけの貢献ができたかが問われる。大したことは出来ずとも、道路清掃、街の美化に地道な努力をされた方に感謝するべき。類家地区でその努力をされている山田氏がおられる。報いを求めることなく、朝早く自転車でゴミ、空き缶の類を収集し、いつもにこやか、人間の鑑となる人は方々におられることだろう。しかし、そうした見えない努力は人口に膾炙されることなく、埋もれるために新聞やテレビを賑わすこともない。
人はいつも問われる、人として何を成したかを。生きてる間は若者のためにこそ、老人はいることを思い知ろう。そして、最後のご奉公として児童、生徒を健全に育てる努力をしたいものだ。
昨今は馬鹿げた時代に陥り、幼少な児童、生徒が殺される。これを守るために行政も立ち上がるところもある。また、行政ばかりではない。町内会も安全な登下校をさせるために街頭に立ち、見守り保護する役割を自発的に開始した。
沼津に旅行し、広報沼津は市内各所に設置した拡声器から「子供たちの下校時間になりました。安全に帰宅できるように市民の皆さんのご協力をお願いします」と呼びかける。同様に徘徊者の人相、服装、氏名、年齢を告げ、見つけた人は警察に電話しろと呼びかける。地域、地域でいろいろな工夫がある。沼津市は人口二十一万、八戸より小さい。八戸にも無線か有線放送か知らぬが、このようなタイムリーな情報を伝達できる仕掛けがあるといい。
「先ほどお知らせしました、山田昌夫さんは無事保護されました。市民の皆様のご協力ありがとうございました。こちらは広報沼津です」と、夜の九時に放送があった。
テレビ局もラジオもあるが、地域限定の時宜に応じたお知らせ、緊急報告はこの手の広報活動にはかなわない。市民を守り、次代を担う子供、若者のためにこそ、寒い冬も暑い夏も散歩に行く時間を調整し、子供たちのために街頭に立ち、安心、安全は地域住民の努力と協力からを実践したいもの。