2008年5月26日月曜日

東奥日報に見る明治三十八年の八戸及び八戸人

一月五日 電報
降参申し込みに付き敵軍使と会見(二日午後一時半東京特発)
将官ステッセルの降伏に関する申し込みにつき今日午前九時水師営にて伊地知将軍と敵軍使との会見ありたる敵に悪意の条件なければ降伏を許容することならん
開城提議の伏奏と聖旨(二日午後八時五十分到着)
参謀総長は聖旨を奉じて左の電報を乃木大将に送れり
将官ステッセルより開城の提議を為し来れる件を伏奏したる所陛下には将官ステッセルが祖国のため尽くせし苦節を嘉みしたまい武士の名誉を保たしむべきを望ませらる
旅順開城規約調印済み(一月三日午前十一時十一分東京特発)
攻囲軍報告
二日午後九時四十五分開城規約本調印を終れり
旅順開城の規約(三日午後九時東京特発)
公報
旅順開城に関する本調印を終りしが総て我が委員の申込み通り決定せり其の規約は十一条からなり其の要綱は左の如し陸海軍人及び義勇兵官吏は総て俘虜とし砲台艦船兵器弾薬その他一切現在のまま我に引渡し担保として一月三日椅子山案山子山及び東南一帯の砲塁砲台を我に交付すること
一月七日
電報旅順の受領結了
(六日午後二時四十五分東京特発)
乃木軍報告
五日旅順要塞の受領を終れり捕虜将校百八十六名下士卒五千四百五十一名中帰国の宣誓をなせしもの将校八十六名あり
日本艦隊の動静
(六日午後一時三十五分東京特発)
三日日本軍艦四隻スマトラ島付近に現れる
愛児を失いて自殺
三戸郡三戸町八日町宇平二女水梨さた(二六)は昨年十二月二十四日男子を分娩し征露の記念とて露吉と名づけ可愛いがりおれり甲斐もなく同月三十一日遂に死亡せるより如何に征露の記念とはいえ露西亜の露の字をつけたるは自分が悪しかりしとそれのみを苦にし床につきたるまま不眠の状態にて呻吟しつつありし結果遂に精神に異常を呈し狂い回りおれるが 去る五日午前二時頃家内の熟睡中起き出でて出刃包丁を以って腹部に突き立て重傷を負い苦悶しおりしを家人が発見し直ちに木村医師の来診を乞いしも効なく翌午前五時遂に死亡せりと
各地の祝捷
三戸郡長苗代村 川勝隆邑氏等の発起にて去る六日午後四時より国旗行列に同村四部内よりインブリ踊り一組つつを出して各村を巡回し尻内停車場休養所に於いて祝宴会を開きたるがこの間絶えず煙火の打ち上げとなせり来会者は非常に多く盛会を極めたるが式場に於いて打ち上げたる煙火は左の如しと
祝砲三、射撃、日章旗、色別流旗、祝捷大会軍用数羽鳩、以下略
八戸町の火事 昨二十一日午前一時三戸郡八戸町六日町築館末松方裏手より発火延焼十二戸に及び同二時鎮火原因取調べ中▽後報によれば午前一時六日町築館末松魚商方小屋より出火せるが幸い当時は風なけれども真夜中のこととて町民は何れも熟眠し居りし為消防の出場遅く加えるに水不足のこととて火は忽ち横丁に延焼し見る間に全焼十棟十一戸半焼一戸焼失同二時鎮火したり原因は目下取り調べ中なるも当時状況より察するに放火されたるものならんと
● 八戸だより
既報の如く八戸地方新兵予習会は去月三十一日を以って閉会せしが未だ今年の入営期には余日もあること故本日より毎日曜日午前九時より午後三時まで八戸小学校体操場に於いて復習会を開始しおれり
▽第二高等女学校の家事裁縫室は当地近元氏の請負にて目下盛んに土工中にして来る十月までに落成の筈
▽鮫郵便局にてはこれまで電信は受信一方なりしを以って実に不便少なからざりしが昨日より配達も取り扱う事となりし故至極便利となれるが湊村の有志者は同地停車場の公衆電信のみにては不便なるを以って同村の郵便局に於いても電信事務を開設せんことを其の筋に誓願せんとて内々相談中なりと
△小中野鮫の花柳界は近年になき寂寥(せきりょう・ひっそりしている)になりしは世の不景気に由るは勿論なるが近頃査公(さこうと呼ばしめるのだろう、巡査を馬鹿にして呼んだのだろう)の淫売(いんばい・売春)探索その他の為臨検の度数多くなれるを以って遊客は査公に顔を見られんことを恐れ為に自然登楼者の減少せし理由なりと
△日露戦争以来多少各商店に競争心起こりたるようなるか過般より其の呉服店にては注文のありなしにかかわらず一日に数回自家の屋号のある箱車を小僧に挽かせて市内を巡らせ居り又泉山醤油合名会社では小僧をして時々得意先へ注文の有無を聞かさしめおりてわざわざ注文に行かざるもよきを以て頗る便利なり小田嘉、西本、加藤その他各店にても斯く競いて需要者の便を図られたきものなり
八戸青年会亡霊祭典
去る七日午後五時八戸青年会に於いて開会創立以来死去せし四十八名の亡霊祭典を神仏合式により執行せしが同会広間の床の間に祭壇を設け坂本祭主の神詞及び寺僧の読経あり次に遺族及び会員の礼拝を行い式終わりて後直会式に移り来会者各自亡霊者の懐旧談をなし散会せしは八時過ぎなりき当日来会の重なるは太田、岩山、遠山、高橋、蒔田、橋本、吉田、南部その他会員百余名頗る盛式なりき
八戸青年倶楽部総会
八日八戸町大字長横町記念会堂に於いて臨時総会を開催せり
八戸共同井の開掘(かいくつ・地面を堀る)
八戸町共同使用の目的を以て去る五日同町字六日町岩岡徳兵衛前の公路に一隅に其の筋の認許を得一カ所の共同井を開掘せり
八戸甲文商店の売り出し
八戸町甲文商店に於いて冬物類斬新奇抜の流行物夫々注文先より荷着せしを以て目下薄利にて売り出し居るか頗る盛況なりと
和泉八戸警察署長の談片
昨年四月より九月までの赤痢患者は六四名あったが本年は割合に少数で二七名の調べをもっている斯く流行病患者の減少して来たのは喜ぶべきの現象であるが気候の変化で今後如何なるかを憂い益々警戒しつつある
八戸の犯罪は重な詐欺騙取恐喝等のものが多いようだ最も予は就任日浅いから独断的観察を下すことが出来ぬが概して三百的行為の多数を占めているのは困ったことだかかる犯罪の多いのは近海の不漁の場合に原因をなしているようだ何故と言えば八戸の金融は漁不漁に大影響を及ぼしているもし不漁の場合は金融の切迫を来すから従っていかがわしき犯罪行為を構成するのだ八戸の商業界に三百の跋扈しておることを度々耳にするがつまり本年は思わしき漁がない結果であろう
統計の動静によりて良く社会現象を詳知することが出来るが八戸の銀行あたりで収出せし所謂資本と収入とを計算して見たらその辺の事情がよく解るだろう
一家五人の赤痢患者
三戸郡上長苗代字大仏八十二番地馬渡岩松の長女きつ(一六)妻まつ(四四)次女たけ(十一)家族りう(一九)孫さな(四)の五名赤痢患者として同駐在所よりの急報に接し和泉警察署長その他係官出張せり
悪少年捕らわる
三戸郡鮫村浜通り二四七番地平民漁業磯島仁太郎(一七)と言う者は去る九月二日午前十時八戸町十三日町大橋豊吉方に至り少年のめぐる悪知恵を絞り出し主人をうまく欺き十一文半長靴一足(四円七十銭)をだまし取り又九月二五日夜に乗じて三戸郡鮫村海岸より約四五十間の海面に停泊中の漁船内に入り宮崎助五郎所有の大漁旗三枚(三円)木綿風呂敷(二十銭)及び紙幣在中の箱一個を窃取し尚あきたらず其の付近に停泊中の久保岩次郎所有の漁船に乗り込み青猪の角二本(二円)紙幣在中の箱一個を窃取せりそれより窃盗の味は忘れられぬと思え九月三十日三戸郡鮫村白浜付近の〇〇と呼ぶ原野に杭繋ぎしある磯島市蔵の鹿毛牝馬一頭(二十五円)を窃取せるが遂に巡査のため捕らえられ去る四日青森検事に送られ行く末おそるべき少年なり
石の地蔵様捕らえられる
世の中に迷信家の多いのには困ったものだが亦迷信家を利用して私欲をほしいままにする者ほど憎むべきものはあるまい所は八戸町鷹匠小路に住んでいる物知り婆という三戸郡戸来村川代生まれの川口くまといういたずらものがあるこの者奇妙な石を何処から持って来たか知らぬが其の石に地蔵の扮装をさせこの地蔵様を軽く上げたものは百願たちどころに成就なると吹聴して迷信家を欺き上がった下がったと大物をやらかし所謂無免許商売を営んで居った所を巡査に発覚され違警罪に問われ科料一円二十五銭に処分との厳命の下地蔵は取り押さえの上八戸警察署に黙然とし居るはよい気味
湊水産学校缶詰製造科
来る二十日より三週間の予定を以て開設する由なる希望者は十八日迄に同校へ申し込むべしと
八戸実業学校割烹会
既報の如く愈来る十二日より毎日曜日来年三月迄の予定にて開始する希望者は申し込むべしと