八戸町三社大祭
例年七月二十日より三日間なりしも本年は陸産物も先ず以って豊作昨今名産の鰮もぼつぼつありてやや景気回復の模様も見えたるより氏子中にても相応の賑わさんとの意気込みもありたれど何様昨年凶歉(きょうけん・農作物の出来が非常に悪いこと。はなはだしい不作。凶荒)以来の余弊(よへい・まだ回復しないで残っている疲弊)もあれば山車等の華々しきことは見合すべしと森署長よりの訓達もあれば鎮静にして天明年度飢饉当時の行列を参考とし形式的の大祭に決せりと
八戸輪友会
二十六日午後七時より八戸町記念会堂に於いて第七回談話会を開き来賓には若井法学士、船越郡長、内田高等女学校長、新聞記者、青森遠乗りの輪友等にて内田、若井両氏の談話あり北村幹事長の答辞あり例により茶菓ビールの饗応ありて散会せしは午後十時半なり若い法学士には自転車の活動より総ての人間生物に関する活動により強弱の真理を論及し聴者をして感動せしめたり同氏は階上銀行行友会の催しになる同行内の講話会は金力と権力との問題に付き数万言を吐露し大に感動せしめたり同氏は二十七日一番列車にて青森より函館へ赴き遅くも本月末までに帰京の予定なりと同氏は目下海軍中主計にして大学院の助教諭を兼務せられ居りと
酔わせて泥棒を働く
三戸郡鮫村大字浜通り大久喜字石仏沢四番戸平民農沼沢孫太郎(三一)と言うは去る八月二十日午後四時過ぎ同郡階上村大字田代天摩金蔵なるものと共に同村字道仏の耳ケ吠商業巴申松方にて飲食し金蔵のよい機嫌にて程能く寝入りたる所より同人所有の金二十円在中の財布を窃取したるが直に露見し昨日逮捕せられ検事局へ送られたり
八戸の殴打創傷
前々号に記せし如く八戸町大字石手洗中村定五郎(二十二)は去る八日夜の十一時頃帰宅の途中野原を通過の際草叢より覆面の男現れ来たりて凶器を以って散々に切りつけ頭部四箇所及び右脚両腕に重傷を負いその場に気絶し居るを発見したるものあり其の筋に急報したるより警官は医師と共に出張して応急の手当てを施して医師種市良一氏方に運ばれ治療中なれども中々の重傷なれば生命覚束なかるべしとのことにて加害者として逮捕されたるは中村本次郎(二十一)岩館兼吉(二十二)の二名にて本次郎は兼吉を教唆したるものなりとのことなるが原因については判然せざれども被害者定五郎の妻は同村内に於いてずいぶんの美人という聞こえある程なれば或いは嫉妬の念より茲に至りたるものにあらずやといえり尚被害者の定五郎は嘗て殴打致死事件にて重禁固刑九年に処せられ特赦せられたることありしものなりと
八戸高等同窓会懇親会
八戸高等小学校第二回同窓同志懇親会は十日午後三時より八戸町長横町記念会堂に於いて開き来賓には当時の教員並びに新聞記者等にして諸般の準備整頓するや関野平助氏の開会の旨趣並びに前年度に於ける決算の報告あり次に準備委員十名改選ありしが満場一致を以って橋本八右衛門、関野平助、内藤豊五郎、槻舘万次郎、吉田紋次郎、逸見四郎、河野市兵衛、大久保幸蔵、山田利也、根城為吉の諸氏当選次に山崎良甫氏(第二中学職員)は父兄の心得と題し諸氏は小学校時代を過ぎ去りもはや父兄となりたれば其の心得と為るべき事を述べ次に南部興寧氏(農業補習学校教師)は鉱毒と植物の関係に付き同氏は去年来農商務省に奉職中足尾銅山の鉱毒問題解決に付き取り調べられたる実況を陳じ次に稲葉萬蔵氏(八戸女子小学校長)は同堂の懸額にある「同心断金」を題とし同会の必要より同心勉励せざるべからざる旨を述べそれより配膳となり各十二分の歓を尽くして散会せしは午後十時なり同会は明治二十五年以来の八戸高等小学校入学者を以って組織し総員百四十三人なりしがその内他行又は死亡等もあり現在会員七十名にして益々子弟間の親睦を目的とし現会員は士農工商百般の職業家あり談話も為に興味あり面白き会合なりしと
八戸商業銀行
昨年の凶作不漁により沈衰したる財界の状況は年を改むるも何等旧態を更ゆるの動機なければ商況は極めて不振金融は逼迫し旧暦の節季は名のみにして円満なる取引結果を見ることなく二三両月の酒造税納期に際しては金融益々逼塞を告ぐるに至れり上半期の重要輸出品たる軸木の如きは市価の急落に売れ行き不良となりて荷物の渋滞数千個に及び又米穀の輸入は凶作の補充として非常の多額に達しこれ等輸出入品の一時倉庫に充満したるがため資金の需要著しく増加したるを以って預金は減少し貸し金は増加するの傾向を生じ京浜地方に於ける各銀行が商業の不況と工業の不振に伴い利率の低落を決行するも尚手許遊金の多額に苦しむの有様なるに反して貸付金の回収は意の如くならず利率も随って高歩を保ちて新貸し出しに対しては非常の警戒を加えるの悲況を呈したりしかも農家の不作の回復として唯一のたくしたる本年の麦作は不幸赤渋病の発生によりて再び凶作の声を高めたれば金融愈々円満を欠きて財界は一層暗黒の状況となりたるが故に始終充分の警戒を以って取引をなせしかば幸い平穏無事に経営を了することを得たり