2007年5月1日火曜日

月刊評論の時代、昭和十二年の八戸2

深夜の大塚横丁を探る
酒場とカフェーはいわゆるインテリの鬱憤と見栄の捨てどころとか…
さて最近市内にやたらに跋扈(ばっこ・「跋」は踏む、「扈」は竹やな。大魚が梁やなの中に入らないでおどりこえることから) 上を無視して権勢を自由にすること。転じて一般に、勝手気ままにふるまうこと。のさばりはびこること)してきた一杯飲み屋は何をやっているか?記者は一夜大塚横丁群がり、それなりにやつているパイツ屋の夜を探ってみた。
ぞっとしながら
臭いゾ!と見破られてはあたら功をイッキに欠く恐れがあるのでスキー帽に破れオーバーそしてドタ靴を身につけて扨て出るには出たものの、何しろかかる飲み屋への見参は生まれて今が最初だ。記者のそれでなくとも弱い弱い心臓はいささか寒気に縮む思いなきにしもあらずであったが、職責の重かつ大なるに勇を鼓して出掛ける。
とにかく神経を殺してからと、ほど近い角のおでん屋で熱燗二三本たおして目的地に向かった。時刻は十一時廻ったばかりである。
春の夜霧にうるんだ街を行く…なんて書くと誠に詩的な文句であるにしても、職柄とは言え虎穴に入らずんばの悲壮な?心境を持ってノレンに御休所と染め抜いた小っぽけな飲み屋のガラス戸は手を掛けた。
中にはうす暗い電灯がションぼり低い天井からぶら下がっているだけで客らしい姿は見えない、「熱いところを一本つけてくれよ!」と奥の方へ酔いどれ声よろしく呼ぶと、「いらっしゃい」元気はいいが紙ヤスリみたいなやに艶のない声帯の返事があったと思ったら、五十がらみの薄汚い婆さんがヒョッコリ現れた。
「姐さんはいないのか」がっかりさせるにも程がある。と不満たっぷりな素振りをみせると、婆さんは複雑な表情をして、一寸用達しに出したと弁解した。
「チョ、面白くねえなあ」とつぶやきながら記者はいっぱしの御得意然としてすましこんで婆さんのつけてくれたお燗をぐい呑みして何かなきかと狼の如く待っていたが、客は無し、女っ気はなし、見切りをつけてサヨナラする。
算盤度胸?
命拾いをした様に外に飛び出してホットしたものの、これからまだ二三軒のさねばならぬ事を思って慄然とした。霧雨はまだやむことなく更けた街の灯をぼかしている。
これも職柄なれば詮もなしと第二の飲み屋へ突貫する。
此処はまた狭い店の中に、カフェーのお古らしいスプリングの利かなくなったボックスがガタガタと三つ四つ並べられてある。
奥まったボックスの一隅に鳥打ち帽子のアンチャンとむっつり小太りした姐さんが並んでなべ焼きをつついている。誠にもってランマンたる風景。それが記者の威勢のいい戸のあけっぷりにビックリするかと思いの外、ランマンたる構図のまま「あらいらっしゃい」記者は初めてなのに十年の知己を迎える如き意味深な上目を使ってニット笑った。
記者も勿論百年の知己の如く「やあ…」と言いながら彼たちの隣の席へ腰をかける。周囲を見回すと安っぽい壁紙に、ショクパン、なべ焼き、ケーキ、定食、等と拙いメニューがチグハグな対照をなして貼られてある。「ほ、ほう。ショクパンとケーキ出来るのかえ?」注文を聞いて行きかけた姐さんの横顔に吹きかけると、「あらそれはご愛敬よ」「ご愛敬?」
それじゃインチキだって言うのかと皮肉ると「何ですか?」賢明なる姐さんには記者の問いが解らぬらしい。
一体飲み屋の規定になっているのか、前の店同様の偉大な徳利を運んできた。
「マア姐さん座れヨ」と傍らに座らして気分の出ないお酌をして貰いながら、向こうのアンチャンに聞こえない低声で「えんぶりに大分儲けたろう」と山をかけると、「大したこともなかったよ」と案外真面目だ。記者ももっともらしい顔をして彼女の耳に口を寄せ「おい、あの若僧帰ったら久しぶりでサービスしろよ」姐さんフフフと意味深な含み笑いする。向こうで例のアンチャン気が揉めると見えて自棄に煙草をプカプカやらかしている。
姐さんに奢った大枚十五銭のナベ焼きが記者の乱入によってフイになるのかと言う訳でもあるまいが、ともあれ内心おかしくなったり気の毒になったり…
それでもこれが四十がらみの苦み走った恐い面相のオッサンで「若僧、邪魔すると承知しねえぞ」とか何とか怒鳴られては、記者だって気味が悪くなって退却せざるを得ないんだが、相手は幸いにして悪っけのなさそうな小柄なアンチャンだ。よし喧嘩出入りになったって歩はこっちのもの…
算盤度胸で記者はボックスにふんぞりかえっていると、とたんに向こうのアンチャンたまりかねたように姐さんに声をかけた。「二階でゆっくり飲まないか」記者の傍らで煙草をふかしていた姐さんの手が横に振られた。
「どうしてダメなんだ」「とてもこの頃やかましいんだよ」記者はとぼけ顔して、そんなに厳しいのかと聞くと、この頃は日に二三度覗きに来るのヨとやりきれないという風情で姐さんうつろなる顔をなさる。
時計を見ると十一時二十分過ぎている。後四十分のタイムしかない。一寸頑張ればあと一息でハラハラする場面になるのだが、それを投げて次の突貫のために惜しくも勘定払って出る。
銘酒のため効き目あらたかなるためか、頭がズキズキ痛い。まことに記者なんどの足を入れるべき場所ではない。最後の一軒を襲うた。そこには客が二人、半纏がけの兄さん連がメートルを揚げている。三十近い姐さんがお酌の手をやめて、うろうろ門口に立っている記者に「入りなさいよ、外ばかりで浮気しないで、たまにはうちでもゆっくり飲んだらいいでせう」なかなかにして弁舌鮮やかな代物である。記者は又も十年の知己にされてしまった。空いている薄汚れたボックスに腰をかけて、偉大なる徳利の銘酒には流石記者も脅威を感じて、そばを注文する。
二人の先客は猥談を交々語って姐さんを刺激するつもりらしいが、百戦錬磨の彼女には流石に焼け石に水だ。あきらめたか二人の酔いどれも去った。さて、独壇場になったわいと時計を見るとすでに残念にも十二時二十分。これじゃ頑張るわけにもいかぬと腰をあげると「あら、もうお帰り、無情だワ」とか何とか姐さんヌカリがない。記者は恰も騙されたかの如き態度で「面白いこともないし時間にもなるから帰るぜ」と腰を上げると、「外は寒いし……
後略 結句何ということもなし、出だしだけの尻切れ原稿。戦前は朝日町、新長横町もなく、この大塚横町あたりが曖昧屋の巣窟のようだ。小中野の女郎屋にも行けぬ、銭のない連中が何か良いことないかいとウロウロしたんだろう。それを相手に鼻の下を伸ばさせたり縮めさせる手練手管の淫売が沢山いたのだろう。
世の中は金と女は仇なりどうぞ仇に廻りあいたい 太田南畝(おおたなんぽ・江戸後期の狂歌師・戯作者。幕臣。名は覃たん。別号、蜀山人・四方赤良)の世界。江戸の昔からこれだもの、人間なんてのは利口にならないもの。
市内中等学校各運動部選手卒業生と本年度選手
地方スポーツ界の華は、何を置いても先ず中等校選手の活躍に○ものおおいが、母校の名誉を担って活躍するその若人も年ごとに、母校を巣立ち実社会に飛び去る。
今年度県南中等各部選手を紹介
八戸中学
野球部
主将 林崎正雄捕手 最上正俊三塁 松尾栄右翼 坂下慶助二塁 植村嘉夫 石木田由弥一塁 中野実遊撃 工藤正義中堅 中島義好左翼 金子良一 田中平治投手 馬場幸四郎 高橋久育 卒業生 阿部久八
柔道部
卒業生 差波直三 三ケ田佐一郎 鈴木貞一 河西大弥     高橋勝人 監督 佐川圭吾
新メンバー
大将 田村徳蔵 副将 笹渡勇人 三将 福田実 吉成武久 先鋒 郷州永八 監督 加藤栄弥
剣道部
卒業生 監督三浦信一(就職)選士久保邦輔(国士舘)槻館陽三(早稲田)広沢安平(慶応)中屋敷広勝(盛鉄)浅山賢二(駒沢)小山田清澄(高船)
本年度メンバー 監督下田孝一 大将 立花左近 副将加藤一夫 中堅三浦政吉 四将近藤政吉 先鋒浪打正 補欠工藤八十寿 同金沢志郎
水泳部
卒業生 主将加藤真平 三村官左衛門 田口貢 清水徹男監督吉田良一 
今年度選手 監督村井宏三郎 主将宮崎松雄 五戸重雄 村田善一 岡部一彦 武田忠雄 篠本茂夫 森清 下斗米永三郎 江口忠吉 溝口清美 島守薫
競技部
卒業生加藤鎮雄(棒高三段) 河口與五郎(槍) 三浦一郎 木村繁夫 広沢専蔵 庭田福右衛門  
新メンバー 主将高島健三(短) 中村弘(槍)石倉鎌吉(中距)橋本隆一郎(長)高橋一郎(長)三浦象二(短) 神秀夫(中)荒井賢治(短)
スケート部 卒業生下斗米徹二(主将)川口與五郎
新メンバー 主将中村弘 藤田仁郎 金沢新太郎 川村弘康 田名部忠太郎 石橋富男 吉田実 沢村 福井 星
商業学校
競技部 卒業生 広田 中崎 泉山 北村 宮崎
新メンバー中居直三郎 佐々木 関野 高橋 馬場 監督関野幸治
水産学校・柔道部 卒業生大島 工藤
新メンバー 主将若狭龍次郎 副将岩岸五郎 吉田富太郎 佐藤午之助 豊島万之助 柳町松雄 高見佳兵衛 服部弘 桜野倉雄 種市八十吉 榊保蔵 笹川信 伊藤庸